前半が『江戸おんな絵姿十二景』と題し、1枚の画から主題を得て12ヶ月の季節に対応した短いストーリーを綴ったもの、後半も同様に『名所江戸百景』(安藤広重)の浮世絵を主題にした短編小説というテーマ性を持った作品。
特に前半の『江戸おんな絵姿十二景』の”超短編”ともいえる短いストーリーが興味深い。
これといった”山”や”どんで返し”といったものが存在しないごくありふれた日常のひとコマを抜いたことで、逆に藤沢修平の文章の美しさが際立っているように感じる。
また、この12編で優しさや健気さ、一途な想いといった美しい部分から、狡さ、計算高さ、嫉妬深さといった暗い部分まで”女”全体の部分をひとつずつ切り取り、季節に当てはめているようでもある。
その一方でそれぞれの女にふさわしい(その男自体が幸せかは別として)相手役として描かれる男像もストーリーを引き立たせる上で重要な役割を果たしている。
『男の無神経さと女の奥深い嫉妬心』を描いた
『朝顔』、
『分不相応の遊女に全財産を注ぎ込んだ男、そしてその事を哀れみつついいようのない想いに縛られる女』を描いた
『明烏』等短いながらその中に見事に女の心情を描く。
また、その中に
『年の市』のように救いようがないと感じるような悲惨な人間像を加えているあたりも藤沢氏らしい演出と感じる。
他の作品とは異なる質感だが、藤沢氏の『文章の美しさ』に触れるには最適な作品である。