武家物の短編集。
『短編』といっても本書においては、それぞれの物語にボリュームがあり、藤沢作品にしては珍しいながさのもので『中編集』といっていいかもしれない。
・榎屋敷宵の春月
家老の宮坂縫之助の死去が死去し、後任の執政入りをめぐる争いが始まった。
その候補の中に主人公田鶴の夫と、田鶴の親友の夫が含まれ競争数するような形になっていた。
また、親友といってはいるが、以前三弥と死んだ田鶴の兄との確執を知って以来田鶴の方には三弥を憎む部分があり深い信頼関係があるというわけではない。
そのため田鶴は三弥に負けまいと思うのだが、財力や主人の人望等で三弥の家に及ばないのも感じていた。
そんなある日、田鶴は家の前で斬り合いが行われているのを止めるのだが、その事が田鶴と家の運命を変える事となる・・・。
・三ノ丸広場下城どき
主人公粒来重兵衛は、昔は名のある剣士だったが現在は酒におぼれ身を持ち崩したうだつの上がらない武士である。
そんな重兵衛の元にとある人物の護衛の依頼が来る、過去の件名があるとはいえ今の自分の姿を考えると疑問では会ったがその依頼を引き受ける。
しかし、予想通り衰えた体では満足な働きも出来ず失敗し、護衛すべき人物は切られて死んでしまう。
ところがその依頼自体が罠だったのである。
それに気付き身の危険を感じる重兵衛、復習のため剣技を再び磨くべく体を鍛える、そしてことの真相にも行き当たる・・・。。
スリリングな武家物の秀作4作を収録。
やはりある程度の長さがあった方がストーリーとしては面白くなりますね。
エンディングのどんでん返しや、謎解き的なストーリー展開等の妙が素晴らしい短編集です。
特に落ちぶれた主人公が、衰えた中年の体にムチを打って再び剣客としての輝きを取り戻す『三ノ丸広場下城どき』は名作。