初期の短編集。
初期の藤沢作品独特の『暗さ』が目立つ。
藤沢氏自身が『自分の内側に住み書くことでしか表現できない暗い情念』と語り、そして『この暗さのために私は賞には無縁だと思った』とも言っている。
ただし、この『暗さ』は人間の根底で誰しもが持つものであり、それも含めて”ヒト”であり、暖かさを感じるものであるように思う。
誰も悲しむ物がなく、親戚一同の迷惑者として殺された兄を哀れみ、血の繋がらない弟がその仇を変わって打とうとする
という表題作『又蔵の火』のをはじめ、ある種救いようがないほどの重い空気が作品を覆いながらも、どこか人の持つ温度を感じさせてくれる作品はやはり美しく感動的。
『賽子無宿』『割れた月』のように博打打ち(当時は博打はご法度で見つかると良くて遠島、悪いと死罪であった)の悲哀を描いたものが藤沢周平の作品には多いが、ギャンブルとそれにはまるダメ男、そういう男に決まって惚れてしまう女性等、この手の仕組みは人間の哀しい永久ループであるように感じる。