何はともあれ『蝉しぐれ』。
藤沢作品の代表作であり最高傑作とされる長編小説です。
大学生の時にバイトしていた塾の室長から『これは面白いから読んでおけ』と半ば命令のように渡され、気乗りしないまま読みはじめたら、いつの間にか面白くて寝ないで一晩で読み終えた作品。
その後ことあるごとに読み直しては新しい感動をもらうマイバイブルと呼べる一冊。
ここまで完璧で淀みの無い作品っていうのはなかなか無いと思う。
ストーリー、描写、登場人物の総てが魅力的。
内容は下級武士である主人公牧文四郎とその仲間の成長を軸に恋愛、友情、家族の絆等を描いた人間ドラマ。
それに加えて藩の陰謀に関するミステリー的要素やお得意の剣術描写まで含む盛り沢山な内容。
藤沢周平の持つ莫大な引出しを全部引っ張り出してます(笑)
しかもこれだけ詰め込んでいながらテンポ感が良く、最高に爽やかな読後感が味わえる。
藤沢作品の最高傑作であり入門偏としても最適です、これがダメならダメでしょうね...。
江戸中期、藤沢作品ではお馴染みの東北の架空の藩『海坂藩』が舞台。
冒頭の風景描写からヒロイン役「おふく」とのエピソードまで完璧なつかみで入り、前半は思春期の少年のありきたりの風景や心境、成長が美しく描かれています。
んで中盤、というかある意味じゃこの小説最大の山場である父親とのやり取り、後にも先にも小説で涙したのはこの場面だけ。
その後は藤沢作品ではお馴染み『秘剣』も登場し剣術もののスリリングな描写を楽しみつつ、テンポ良くクライマックスへ。
ラストはちょっと賛否あるかもしれませんね、ただ『綺麗に終わらない美しさ』というのはあります。
とりあえず騙されたと思って読んでみて下さい。